感動はどこへ行った

()内は物語中のいずれかの者の心の言葉

中学生のとき。
ぼくは英語弁論大会で東京に来ていた。知らない女生徒がぼくに急に話しかけてきた。
「うわーこのマフラーずっと欲しかったやつやねん。うらやましいわあ。どこで手に入れたん」
FENDIのマフラーをぼくは巻いていたのだが、中学生のぼくはまさかこのブランドがそんなに女の子に食いつかれるものだとは知らなかった。
ぼくは無邪気に「原宿で黒人から9000円で買ったよ!」というと、
「やすっ!ぱちもんやんけ!」
と言ってその子は走り去って消えた。
ぼくは気づけばその子に勝手に好きになられて勝手に振られてしまったのだ。
(はて、彼女の感動は、どこへいってしまったんだろう)
(今思うとその子は新垣結衣にそっくりだった)


「その髪型ええやん」
と言うと、必ず
「いやこれ天パやから」
と答える男がいる。

「その服めっちゃ可愛いやん」
と言うと
「いやこれ安もんだよ」
と答える女がいる。(頬を赤らめながら)

「あの子、とんでもない美少女やな」と言うと、
「まあ化粧は上手いんだろうね」
と答える男がいる。

このタイプの応答に出くわした時、ぼくはただただ頭の中だけで
(うん、そのことは、知らん)
と言うしかない。天パだか安もんだか化粧上手いだか知らんが、その関係ない話でおれの当初の感動を奪わないでほしい。おれはお前の髪型に、お前の服に、あの子の可愛さに感動したんだ。それを関係ない話で茶化さないでほしい。

授業できいた話。
せっかく落札したジョルジュ・ポロックの絵を、鑑定した結果偽物だったとして訴えた人がいる。
「もしも偽物だったとしたら、絵を見た時の感動はなくなるんですか?」と言って教授は机をバン!!と叩いた。

クリスマスになると、必ず憤慨する男がいる。キリスト教でない日本人がクリスマスを祝うことに腹が立つらしい。その男は最後に必ず「まあ、俺が恋人いないから嫉妬してるだけなんだけどね(そんなおれを笑ってくれよ)」と言って笑う。

カポーティの処女長編、『遠い声 遠い部屋』の書評をブログで検索すると、様々な人がブログで感想を書いていたが、その中身はほとんどカポーティの略歴だった。「恐るべき子供」だとか

「ピカソは天才だ」と言う人に、どこが天才なのかときくと、
「ピカソはデッサンめちゃくちゃうまい。あれだけうまいデッサンが描けるからこそ、下手な絵が描けるんだ」
と言う。(だから素人にはピカソみたいな絵は描けないと証明したとでもいうように得意げに)




みんな関係ないことをごたごた並べたがる。混同してしまっている。利用している。
何をか。

ある偉い人が「テクスト以外には何もない」と言ったが、人はなぜテクスト以外を欲しがるのか。なぜ素晴らしい髪型の話のときにそのテクスト外である天然か人口かという議論を持ち込むのか。なぜ可愛い女の話をする時にテクスト外であるメイクの技量の話をするのか。

それはそいつがチキンだからだ。(チキンナゲットだからだ)

男は女に騙されたくない。可愛いと思って付き合った女が化粧を落としたときにがっかりしたくない。だから男は可愛い女をみても簡単には可愛いと言わず、それが化粧のおかげかノーメイクでも可愛いかを判断しなければならない。騙されたくないのだ。だからアイドルが整形したかどうかが気になるのだ。

(男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり)

紀貫之は、そのことをよく知っていた。この序文が、このテクストだけではだれも解決しようとしない、ということを知っていた。読者はこれを書いたのが男であり、なぜ男がこんなことを書いたかということを議論の焦点にするだろうことを、紀貫之は知っていた。読者がテクストだけではなく必ず作者も巻き込むだろうということを、彼はよく知っていたのだ。


新垣結衣に似た女の子の感動はどこへいったんだろうか。ポロックの絵を買った男の感動はどこへ、無宗教のクリスマスへの怒りはどこへ行ったのか。

(Where have all the flowers gone?
Long time passing
Where have all the flowers gone?
Long time ago
Where have all the flowers gone?
Girls have picked them every one
When will they ever learn?
When will they ever learn?)

(感動はどこへ行ったんだろう
鑑定書の中にだろうか
感動はどこへ行ったんだろう
値段の中にだろうか
テクスト以外にはないことを紀貫之は知っていた
しかし彼らはいつ知るのだろう
彼らはいつ知るのだろう)



$gaku1_4-IMG_8556.jpg
(Hey, how are you doing?)

感動はどこへ行った 感動はどこへ行った Reviewed by asahi on 23:47 Rating: 5

0 件のコメント:

Powered by Blogger.