池袋行きの電車を待ってると、後ろから「てめえどこ見てんだこら。おい、何見てんだよ」という怒れる男性の声が聞こえた。振り返ってみると、眼鏡をかけた中年男性が、何もない空間にむかってしゃべっていた。
電車が来たので乗ると、そのおっさんはおれの向かいの席に座った。ずっと一人で会話している。おれはコーマック・マッカーシーの本の小説のかなり重要な箇所を読んでいたんだけど、おっさんの会話が邪魔してしまう。
おっさんはただ空気にむかって喋ってるんじゃなく、一人二役を演じて、完璧に会話を作り上げていた。
さっきまでキレてた男は、喧嘩ではなく、相手を諭すような説教に変わっていて、相手もそれに反論したりして、ちょっとしたディスカッションになっていた。
おっさんは急に立ち上がって、おれの横に座る男に、「大丈夫か!!」と叫んできた。(いやお前が大丈夫か)と思って横を見ると、おれの横に座る男子高校生は鼻血を出してそれをティッシュで拭っていた。思わずおれも「大丈夫か」と聞いたら、青年は「大丈夫です」と言う。
おっさんはその高校生にむかって「おれは医学関係は詳しいからわかるんだけども、その鼻血の量は異常だ。見たことねえ」という。高校生が鼻を拭いながら「大丈夫です」というと、おっさんは大声で「違うんだよ!!ティッシュを鼻に突っ込めよ!!」と言って青年のティッシュをとってそれを丸め、彼の鼻に押し込んだ。
「お前どこ行くんだ」とおっさんがキレながらきくと青年は「有楽町線に乗り換えて練馬にいきます」と言った。するとおっさんは「おまえ東京からきたのかよ!東京かよ!」ととんでもなく驚いていた。
(池袋行きの電車だから大抵東京にむかってる人ばかりだろう)と車内の全員が思ったのを尻目に、おっさんはおれをみて和やかに微笑んだ。「おれは次の駅で降りなくちゃなんねえからよ、お前、こいつのこと頼んだぞ」とおれに言う。
「まあ、大丈夫でしょう」というおれの意見を無視しておっさんは高校生にむかって「ティッシュを鼻につめるのは恥ずかしいかもしれねえけどよ、しばらくはそうしとけ。おれは医学関係は詳しいからわかるが、その鼻血の量は見たことねえ。異常だ」と言った。
そして電車が駅についておっさんは降りた。
おっさんが降りると青年はすぐにティッシュを鼻からとって、血が固まったことを確認してからそれをカバンの中に入れた。
おれは青年に「大丈夫か、いろんな意味で」と言うと青年は笑って、「ちょっと驚きました」と言った。
「こっちはああいういかついの多いから。気をつけて」と言うと、高校生はまた笑って「ありがとうございます」といった。おれはコーマック・マッカーシーを読み始め、高校生は少年ジャンプを読み始めた。
電車が来たので乗ると、そのおっさんはおれの向かいの席に座った。ずっと一人で会話している。おれはコーマック・マッカーシーの本の小説のかなり重要な箇所を読んでいたんだけど、おっさんの会話が邪魔してしまう。
おっさんはただ空気にむかって喋ってるんじゃなく、一人二役を演じて、完璧に会話を作り上げていた。
さっきまでキレてた男は、喧嘩ではなく、相手を諭すような説教に変わっていて、相手もそれに反論したりして、ちょっとしたディスカッションになっていた。
おっさんは急に立ち上がって、おれの横に座る男に、「大丈夫か!!」と叫んできた。(いやお前が大丈夫か)と思って横を見ると、おれの横に座る男子高校生は鼻血を出してそれをティッシュで拭っていた。思わずおれも「大丈夫か」と聞いたら、青年は「大丈夫です」と言う。
おっさんはその高校生にむかって「おれは医学関係は詳しいからわかるんだけども、その鼻血の量は異常だ。見たことねえ」という。高校生が鼻を拭いながら「大丈夫です」というと、おっさんは大声で「違うんだよ!!ティッシュを鼻に突っ込めよ!!」と言って青年のティッシュをとってそれを丸め、彼の鼻に押し込んだ。
「お前どこ行くんだ」とおっさんがキレながらきくと青年は「有楽町線に乗り換えて練馬にいきます」と言った。するとおっさんは「おまえ東京からきたのかよ!東京かよ!」ととんでもなく驚いていた。
(池袋行きの電車だから大抵東京にむかってる人ばかりだろう)と車内の全員が思ったのを尻目に、おっさんはおれをみて和やかに微笑んだ。「おれは次の駅で降りなくちゃなんねえからよ、お前、こいつのこと頼んだぞ」とおれに言う。
「まあ、大丈夫でしょう」というおれの意見を無視しておっさんは高校生にむかって「ティッシュを鼻につめるのは恥ずかしいかもしれねえけどよ、しばらくはそうしとけ。おれは医学関係は詳しいからわかるが、その鼻血の量は見たことねえ。異常だ」と言った。
そして電車が駅についておっさんは降りた。
おっさんが降りると青年はすぐにティッシュを鼻からとって、血が固まったことを確認してからそれをカバンの中に入れた。
おれは青年に「大丈夫か、いろんな意味で」と言うと青年は笑って、「ちょっと驚きました」と言った。
「こっちはああいういかついの多いから。気をつけて」と言うと、高校生はまた笑って「ありがとうございます」といった。おれはコーマック・マッカーシーを読み始め、高校生は少年ジャンプを読み始めた。
きちがいと高校生との淡いひととき
Reviewed by asahi
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23:47
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