女と息子と孫

これは実在する話です。
ある科学者がタイムマシンを発明し、それに乗ってルネサンス期やベルリンの壁崩壊などを見学した後、数十年過去の実家に飛んで、幼少期の父親と若い祖母に会いました。科学者は自分より年下の祖母を拘束した後に自分より年下の父親を殺害し、現在に戻ってきました。父親に恨みのあった科学者は、「やったぞ。完全犯罪じゃ」と言ったそうな。
そこで科学者はふと考えました。自分の父親が幼少期に死んだのに、なぜ自分はここに存在するのか?パラドックスだった。そこで冒頭の「実在する話です」という文句も気になってきた。「実際にあった話です」というのが普通ではないか。科学者は考えた結果、この話は物語としては実在するが、現実に起こった物語ではないという結論に至った。安心した科学者は、その夜ぐっすりと眠ることができました。





こういう話もある。
実際にあった話である。というか知り合いの話です。名前は仮にMちゃんとする。

Mはある日、間欠的な腹痛、38℃の発熱、腹部・手背・膝窩・両下腿・足背に掻痒感のない径1mm大の皮膚色の丘疹が散在性に出現し、寝込んでいた。翌日になって咽頭痛が悪化し、近医を受診した。溶連菌とインフルエンザウイルスの迅速検査を行ったが陰性であった。その後発熱は39~40℃と上昇したが丘疹は消失した。
翌日、再度受診し、セフカペンを処方された。
症状に多少の変化は見られるも回復はせず、4日目より、泥状から水様の下痢が1日1~2回程度出現した。5日目に解熱したが、咽頭痛・腹痛は悪化していた。近医受診し、アデノウイルス迅速検査が施行されたが陰性、血液検査ではWBC5000/μl、Hb12.6g/dl、血小板13.4万/μl、GOT264IU/l、GPT196IU/l、CRP3.05mg/dlと肝機能障害、軽度の炎症反応増加を認めた。腹痛に対しては浣腸が施行された。
6日目、精査加療を必要とし、都内内科に紹介された。来院時、体幹に紅斑出現し、腹痛は強くなく、WBC13500/μl、Hb12.8g/dl、血小板16.3万/μl、GOT98IU/l、GPT100IU/l、CRP1.65mg/dlの検査結果を認めた。
帰宅後、再び発熱が出現、腹痛はさらに増強し、翌日に入院となった。
生化学検査では、軽度の肝機能障害、LDHの増加、低Na血症、CRPの軽度上昇を認めた。血液一般検査では、WBCの上昇、分画では好中球の増加、単球の増加を認めた。赤沈は51mm/hrと亢進していた。尿検査では、ケトンが3+で、蛋白は1+であった。便検査では、塗抹では多核白血球は1視野5個未満と陰性であり、その他ロタウイルス、アデノウイルス、O157、Clostridium difficileの抗原検査も全て陰性であった。

入院当初は、川崎病も鑑別に考えられ、心エコーも施行したが、冠動脈を含め異常は認めなかった。入院時の問診で、Mは発症2日前にLSDを服用しており、その際に幻覚を体験していたことが判明した。幻覚の内容は、見知らぬ男性に拘束され、自分のまだ誕生していない息子が、目の前でその男性に撲殺されるというものだった。腹痛、再発熱、発疹、下痢を認め、画像検査より腸管膜リンパ節炎、回盲部中心に腸管壁肥厚を認められたので、エルシニア感染症が最も疑われた。入院翌日の第9病日に再度幻覚症状を訴えるようになり、架空の息子が科学者に殺害されたと訴えるようになる。発熱・腹痛持続、全身状態もやや不良であり、Albも2.7g/dlと低下、尿量低下、浮腫も認め、エルシニアの敗血症の可能性も考慮したため、カウンセリングは施行せずゲンタイマイシン5mg/kg/dayの投与を開始した。ゲンタマイシン投与翌日より解熱傾向を認め、全身状態・腹痛も徐々に軽快していった。
第11病日、入院時の便のエルシニア選択培地からエルシニアペスティスが検出され、エルシニア感染症と確定診断した。血液培養は陰性であった。 系統はオリエンタリスであると推測されるが、感染経路は不明である。
7日後のペスト菌解析の報告によると、系統はMedievalisと判明し、2011年ロンドンで発見された14世紀のペスト菌のゲノムと酷似していることが判明した。14世紀からほぼ進化を遂げていないMediavalisの感染報告は初である。
女と息子と孫 女と息子と孫 Reviewed by asahi on 23:47 Rating: 5

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