macaroomのスペクトルポップの新曲「hole」と穴で繋がる別世界について

 

maacaroomの新曲「hole」を発表しましたので、少し解説します。




この曲は二つの世界をつなぐ穴についての曲をイメージして作られたものです。

二つの世界をつなぐ穴といえば、言わずと知れたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の穴や『ナルニア国物語』のクローゼットだけでなく、ごくごく最近のネットフリックスのドラマ『ストレンジャー・シングス』に至るまで、古典的な並行世界へのよく知られた道具として馴染みのあるもの。

そういう愛着のあるSF/ファンタジーの物語の設定モチーフにして、技術的にこれを表すことにしました。

例えば、「hole」のAメロは、「emaruそっくりに歌うコンピュータ」が歌っています。

サビになると劇的な転調とともに「emaru本人」の登場によって別世界へスリップします。

この技術はmacaroomの主に音響技術面でのエキスパートであるボブが行いました。あらかじめ録音されたemaruのボーカル音声を元にコンピュータで分析合成するパーシャル・トラッキングと呼ばれる手法により、emaruそっくりだが少し雰囲気が違う(そしてなによりすごくローファイ)なものができあがりました。

この音声分析合成の技術は、ボーカルだけでなく、楽曲の最初から最後まで終始流れているラジオのようなノイズにも使われています。これはもともとアメリカの超有名テレビ番組からサンプリングしたもので、それをボブが再生のスピードと方向性をランダムに入れ替えながら、パーシャル・トラッキングしたものです。

最近ボブと話していて、今まであまり意識したことなかったけどボブは「スペクトル楽派」の正統継承者なのではないか、ということがわかってきた。確かに彼が今までやってきた試みも、今作の試みも、フランスのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で花開いた現代音楽、俗に"スペクトル楽派"と呼ばれる潮流の発展形だといえるようなものが多い。まあ、名前は実際なんでも良いけど、形のないものに名前をつけるっていうことはある意味で大事。

というわけで、思いつきでこの曲を「スペクトルポップ」と命名してみることにする。

間奏部分では、バロック音楽初期の作曲家ジョリオ・カッチーニ作とされながら、実際には20世紀ロシアの作曲家ウラディーミル・ヴァヴィロフ作である『アヴェ・マリア』のイントロ部分を引用しました。ヴァヴィロフは意図的にこの曲を「カッチーニ作」であるとして、しかしながらあまりバロック的には思えないこの曲を発表し、実際に2000年ごろまではカッチーニの作品として出回っていました。

単にイントロの旋律の美しさを取り入れたいと思ったに過ぎない演出なのですが、バロックと現代を揺蕩うこの曲の存在自体が、「hole」のコンセプトにぴったりだと思いました。


最後に、今作のジャケットは、もちろん木石南によるフィルム写真から。彼が高校生の頃から愛用しているNikonのF2で、少し前に兄とビッグカメラのカメラ館に立ち寄った際、「カメラの歴史」を紹介する巨大な年表が壁にデカデカと設置されていて、その年表の最初から二番目にF2がおっきく紹介されているのをみて、愕然とした。兄は別に古いアンティークな機材を愛するような懐古趣味の人じゃなくて、最新のiPhoneやツイキャスが好きな、macarooomの中でも特に新しいトレンドなどに敏感な人なのだ。当然F2も、高校生の時に(もちろんF2は当時から"古いカメラ"ではあったが)「これが一番良い」と思って買い、今までずっと普通に使ってきたのだが、気がついたら前時代の歴史的なものになってしまった。悲しいかな、フイルムカメラが売られてないどころの話じゃなくて、フイルム自体がどんどん生産中止が相次いでいる。コロナ情勢下でも目に見えてフイルムが消えたそうな。

というわけで、このジャケット写真自体が、現代にはふさわしくない、時代的な/歴史的なカメラを通して現像された貴重な作品であることを強調したい。別にフイルムカメラで撮ったから貴重だなんて言いたいわけじゃなくて、F2を(F2だけを)使い続けている兄の根性とガッツに、時代錯誤な魅力を感じるでしょ、というわけだ。

この写真、emaruの表情が、「インランド・エンパイア」に迷い込んだローラ・ダーンや、異界の者に遭遇した時の(テニエルの描く)アリスやにそっくり。

ぼくの雑な技術によっておばあさんを空中浮遊させてしまったが、あまり意味はない。

ミュージックビデオはすでにパブリックドメインとなっている短編アニメ映画 "The Arctic Giant" (1942)より。スーパーマンシリーズのひとつで、これも太古の恐竜時代と現代という二つの世界のイメージ。二つの世界を華麗に飛びたるはスーパーマン。

物語の冒頭が巨大な洞窟からというところに注目。

たぶんポーのアーサー・ゴードン・ピムやコナン・ドイル『失われた世界』がモチーフと思われる。





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