ラジオの収録で埼玉県立近代美術館へ。
こういった遠出しての収録は久々だった。
視覚障害者の音声ガイド鑑賞に関する座談会があって、
我らラジオチーム(坂本さん、ぼく、兄)と、
音声ガイドを導入しようと働きかけをしている団体の方と、
視覚障害者の方(坂本さんもこれにカウントできる)と、
音声ガイドをしている方と、
学芸員の方と、
美術館の施設担当の人、
総勢8人で収録。
普段は、こういった収録は坂本さんの運営する「コーヒータイム」から車が出るから、
ぼくらはそれに乗せてもらうだけなのだけど、
今回は車の都合がつかずに、各々が電車で向かうことに。
そして、腹立たしいことに交通費は出ず。
ぼくはこのラジオにはそもそも編集者として参加しており、
編集としてのギャラはもちろん発生するのだけど、
出演者にはギャラがない。
つまり、兄はギャラがなく、つまり電車代も自費。
ぼくも電車代は自費だけど、まあ編集としてのギャラに含まれると考えればまだ良い。
だから、ぼくは毎回兄に電車代を払ってラジオに参加してもらっているという感じ。
それでも出演料としては払っていないのだから、全然十分ではないけれど。
特にでも兄はいま何の仕事もしていないから、電車代が命取りになるわけだ。
ここはシビアな問題。
しかしコーヒータイムとしては、今回は電車代は出ないということなので、
ぼくが近代美術館までの往復の交通費を兄に支払うということになるのだ。
そもそもラジオの編集ギャラなんて安いので、こういうのが続くとやってられない。
まあ、今回だけは、きちんとした座談会が組まれるということで、まあいっか、という感じでしぶしぶ承諾。
そして収録がおわって、
みんなで飲みに。
飲みが終わって気づいたのだが、
普通だったら、こういうときは主催者が飲み代を払うっていうのが定石だと思うのだけど、
ぼくはうっかりしていた。
こういったNPOまわりのひとたちは、めちゃくちゃ支払いにシビアで、
ビール代の消費税分まできっちりと取られた。
いや、こっちが飲んだ分なんだから、取られたって表現は失礼だけど。
でもとにかく、これもぼくはまだ良いとして、
兄からしてみれば、
ギャラも出ないラジオ番組に、遠出して数時間も使って、
あげくの果てにビール代を払わされるわけだ。
だって、夕方からこんな風にお店で飲めるような身分じゃないわけだ。
コーヒー代だって、サンマルクやイタトマみたいななるべく安いチェーン店しか
めったに行かないんだから、
いや、いくら兄だって、
「ここぞ!」という時だったら、居酒屋でビールくらい飲むけど、
こんなたかだかラジオの収録くらいでなんとなくビール飲んで500円なくなるっていうのは解せないわけだ。
とはいえ、そういう流れになったのだから仕方がない。
それで、帰りの電車。
人身事故だか何かが原因で、電車がストップして、
ぼくと兄は途中の南浦和という駅で下車することに。
つまり、電車が再開するまで暇をつぶそうと。
しかし、喫煙できる喫茶店が全然ないし、
もういいやってことで、
別のルートを使って結局帰ることに。
兄の家の近くまで戻って、
そこでコーヒーを飲む。
いやあ、今日は大変だったねと。
痛い出費だったねと。
まあ、とはいえ電車代はぼくが払ったので、
たった500円のビール代でしかないのだけど、それでも痛い出費なのだ。
喫茶店で話した後は、いつもの通り、
路上でコーヒー飲みながらタバコを吸ってお話し。
いろいろ話したんだけど、簡単にいえば、
「兄弟仲良くやっていこうね」っていう、
はたから見れば気味悪い会話だった。
兄弟仲良くやっていこう、というのは、
随分と昔から父親から口すっぱくいわれていることで、
というのも、それは父は弟と喧嘩して別れたから。
そしてその時の現場にぼくら兄弟もいて、というか話せば長くなるから
ここには書かないけど、
まあとにかく、ぼくも兄も、昔から、「兄弟仲良くせんとだめやな」っていう意識が
普通の一般的な兄弟の100倍くらいあるので、
よくそういう会話をするのだ。
まあそれはいい。それについて書くには体力がいるから、今は割愛。
それで、しばらくしてぼくらは別れて、帰路。
夜11時くらいに坂本さんから電話がかかる。
「おう、がくか。いま、どこにいるんだ」
泥酔している。ろれつがまわっていない。
「おい、がく、あのなあ、おれはな、モナリザってあるだろ、あの、モナリザってさ、モナリザの微笑みってさ、世間では評価されているだろ、でもなあ、おれはなあ、あのねえ、あの微笑みはね、なんか嫌な感じがするんですよ、なあ、がくはどう思う? ん? いやわかりますじゃないんだよ、白か黒かしかないんだよ、こういうのは。あのなあ、な、そうだろ? あの微笑みは、気味が悪い感じがするだろ? はっきりしろ。 やっぱりそうだろ? うん。あとなあ、あのな、今日は、収録、いろいろ迷惑かけてごめんよ。それじゃまた」
坂本さんは照れ屋だが、
どこか今日の収録のことが気がかりで電話したんだろう。