Pages

2018/09/21

日高屋でレペゼンに絡まれた夜に女はやってくる



ラジオ収録おわりで、兄とカンフーの練習。
最近は意拳の立禅(座禅ではなく、立ってやるもの)をやったり、
八卦掌の走圏(ただ木の周りをぐるぐるまわるだけ)をやったりしていて、
なんか「思いっきり運動」っていう感じとは違うメニューが多かったけど、

今回は全然違う感じに。

というのも、TikTokでカンフーの動画を投稿しようということになったので、
なんらかの套路をしようということに。

兄は翻子拳、ぼくは八極拳を。

套路をしっかりやる、ということ自体、かなり久しぶりだったので、
変に健全な筋肉痛になった。こういう当たり前な普通の練習もいいね。
こういう練習が本来ならスタンダードなわけだけど、
最近のぼくらはやたら古武術の極意のようなところを集中的にトレーニングしていたから、
いまのぼくらにとっては、こうやってバンバン動き回る練習が斬新だった。

ところでTikTokを使うこと自体は、まだよくわからないけど、まあなんとなくやっている。


それで、練習終わって日高屋でご飯。

メニューはおきまりの、フィッシュフライ定食。
メニュー頼んで、それから兄がトイレに行って戻って来たら、
横の席のおっさんに喧嘩売られてる。
「おい、気をつけろよ」と。
兄は、ああ、すいません、と謝る。
「"かちゃ"って言ってるじゃねえか」と。

何が起こったのかよくわからなかったが、つまり、
トイレから戻ってくる時に、兄が、
横のおっさんのテーブルの上の食器に体が当たってしまったらしい。

というのも、日高屋のテーブル席は非常狭く、
テーブルとテーブルの間もものすごく狭い。
だから、席につくときに、隣のテーブルとの間がぎりぎりの中、
体を横にしてすーーっと通って着席しなければいけない。

んで、兄が着席するときに、隣の席のおっさんのテーブルの上の食器に体が触れたみたいで
「かちゃ」って食器の音がなったらしい。

それにおっさんは怒って、
「おいてめえなめてんのか」的な雰囲気で、
ただこちらに注意するというよりは、なんかヤンキー的な口調と雰囲気で、
「まあまあ、そういう時もあるでしょう」と僕もいい、
「すみません、うっかりしてまして」と兄がいい、
「なんせ狭いですから、びっくりするくらい」とぼくが言う。

おっさんはヤンキー風の口調のまま、こちらに睨みをきかせていたが、
こちらの「驚くほど狭いですから、そういうこともありますよね」的な攻めに、
うんざりしたのか、まあ、とりあえずは一件落着で、喧嘩までには発展しなかった。


それで、そのあとフッシュフライが運ばれて来て、ぼくらはそれを食べるけど、
イライラして味がしないわけだ。

「ああいうレペゼンが増えてるのはなんでやろうね」と兄がいう。
レペゼン、つまり、
「おれはこの街の代表だ。文句あるやつはぶっとばすぞ」という意気込みで、
ヤンキー風に、絡んでくるやつらのことだが、
確かに、数週間前も、路上でタバコ吸ってて、別のレペゼンに絡まれたばっかりだった。
そんときは、「路上でタバコ吸うな」っていうことなのだけど、
「なめてんのか」とか、「喧嘩するならやってやっぞ」的なことをがんがん言われる感じだった。
「いや、まあねえ、喧嘩とかそういうのは違うじゃないですか、、、ねえ?」
とこっちは言うだけ。
喧嘩になりたくないので、下手に出るのだが、やっぱりそれはそれでイライラする。

「ああ、レペゼンねえ、確かに最近絡まれること多いね」とぼくはいう。

せっかくカンフー練習おわり、
フィッシュフライとキャベツの組み合わせと、白米のコラボレーションを楽しみたかったのに。

こうやって話している間も、おっさんは、連れのババアと楽しそうに話している。

「ああいうのは、すぐに警察に突き出したほうがいいかもねえ」とぼくらは話す。

そして、食事を終えたおっさんは、荷物を持って席から立ち上がる。

(あ!)
おっさんが立った瞬間に、全員が同じことをハッと考えた。
(このおっさんは、いまから、おれらのテーブルとおっさんのテーブルの間を通って出て行くわけだ)
(そして、テーブルとテーブルの間は、結構狭い)
(もし食器におっさんの体が触れてしまったらどうするつもりだろう)

たぶん、全員、同じことを考えていた。
そして、おっさんは、体を横向きにして、なるべく細く、
カニ歩きでゆっくりと、テーブルの間を通る。一歩ずつ。じりじりと。

ぼくも兄も、カニ歩きのおっさんを見つめる。
うん、すぐ横だから、もう本当に、ガン見。
すぐ横のカニ歩きのおっさんをめっちゃ凝視。

一歩ずつ。(なんだ、この二人、めちゃくちゃ見てくるじゃねえか)
一歩ずつ。(見てんじゃねえよ。いや、それより集中だ)
ゆっくり。(いいぞ、その調子だ)
じりじりと。(おや、案外狭いぞ、いや、かなり狭いぞ!)
カニ歩きで。(想像していたより随分せまい。こりゃ危ない)
ゆっくり。ゆっくり。(しかし、絶対に、"カチャ"はだめだ)
そして、あと少しで終わりという時に、(あと少しだ! あと一歩!)

「カチャ」

(あ!)(鳴った!)

おっさんは立ち止まり、テーブルの上の食器を見下ろす。
そして、開き直った顔をして、早歩きでレジへと歩いていく。

「えええええー!!」ぼくら二人が叫ぶ。
「いやいやいや、今、"かちゃ"っていったやん!」
「"かちゃ"いっとるやん!!」
おっさんは何もいわず早歩きで去って行く。
「おっさん何も言わんやん」
「ぜんぜんこっち見んやん。顔赤くなっとるやん!!」

ぼくら二人のヤジを、おっさんは完全無視。
全くこっちを見ようとせず、レジで会計をして、
最後までこっちを見ずに、帰って行った。

「なんやねんあいつ。よけいに腹たってきたわ」
「アドリブ全然きかんやつやん」
とぼくらは口々に文句をいう。
しかし後の祭り。ストレスはたまる一方。

そして、ぼくらもしばらくして会計をすませて、
日高屋を後にする。

別れる前に、
タバコ屋の横の喫煙所で一服。

「思ったんやけどさ、前にレペゼンから絡まれたときもさ、練習終わりじゃなかった?」
「んーああ、そうかも」
「カンフー終わりでさ、変な戦闘モード的なホルモン出とるんかな」
「ああ、それはある」と兄がいう。

「前から、カンフー終わりはよう絡まれることがあったから」

「ああそうなんや」とぼくはいう。

「でも、絡まれるうちは、まだまだやなあと思うよ」
「それはつまり、絡まれないくらいのオーラが出たら一流と、そういう意味?」
「うん、まあそうやね」

ぼくらは、まだ修行が足りないのだった。


「っていうことは、カンフー終わりは、女性からはモテるとかあるんかな」

「実を言うと、、それもある」

「な・る・ほ・ど、、、、なあ」

プラマイゼロ、谷ありゃ山あり、苦もありゃ楽もあり、女に持てれば男に絡まれる。

カンフーとは、人生であった。


0 件のコメント:

コメントを投稿