コロナウィルス大流行中に関西ツアーした怒りの記録



大阪のライブハウスは史上最大のコロナ風評被害の向かい風を受けており、ツイッターではライブハウスオーナーらがそれぞれのマニフェストを発表、経験したことのない数のリツイートとそれに続くクソリプ、稀に正論。医療と政治と経済、いやいやその前に倫理観か、我々の行いは正しいのかと自問自答し、考えすぎた末に追い打ちで熱い引用ツイート。精神は病んでいく。街はもうカオスだ、現にマスクはないし、トイレットペーパーもない。
みんな始めからWHOや厚労省の発表よりも、ツイッターやフェイスブックでの情報を信じていた。



時を戻そう。(いやお前が戻したっていい)
ぼくらは、ツアーの経費をインターネット上で支援してもらう形でこのプロジェクトを開始した。
YouTubeのライブ配信で呼びかけ、noteとペイパルで支援を募った。
下関でのイベントは2万5千円の交通費×メンバー(4人)が約束されていた。
それにライブ配信で集まった支援金を合わせて、なんとかメンバー4人の交通費と宿代を稼ぐことができたのだ。
しかし今回のツアーの最終地点であった下関でのイベント「沈黙の春」は
早々にイベント中止を発表、本当に沈黙することとなった。

下関のイベントが中止となり、まさかの赤字スタート。
下関から東京までの航空券は購入済み。
まず、大阪から下関までの船のチケットと、下関から東京までの航空券のを払い戻し。
飛行機は3分の1程度しか返ってこなかった。
そして大阪のライブハウスでの感染者のニュース。政府の要請。
4月にスコットランドから来日するはずのレーベルメイトは
ぼくにスカイプで「ぼくらは今ほんとうに日本にいくべきだと思いますか?」
ときいてくる。めちゃくちゃそう思うやろうな、と思いつつ判断はお任せすることに。

会社はテレワークに、学校は休校に。

ボーカルのemaruがダウンした。コロナウィルスによってではなく、精神的な負担によって。
そりゃそうだ。
AKIRAが予言書なんて言われたりする最中(中止だ中止だ!)、
カミュ『ペスト』の封鎖されたオラン市や、『ミスト』のスーパーマーケット、
そんな場所で音楽をしようというのだから。
しかし、ともかく、ぼくらは大阪と京都のライブを決行することにしたのだ。


時を飛ばそう(ここで話は急にライブ後の打ち上げに飛ぶ)
大阪ムジカジャポニカと京都Glowryでのイベントを終えた最終日に、
ぼくらはゲストハウスのテーブルを囲み、ようやく初めてゆっくりと酒を飲むことができた。
ぼくらメンバー4人に加えて、
知久寿焼さんのマネージャーのわたせさんが、今回のツアーについてきてくれた。
半分はお客さんとして、半分はスタッフとして。

というのも、macaroomと知久寿焼さんは、
つい数ヶ月前にクラウドファンディングでの資金集めの成功によって、
共同でアルバムを制作している真っ最中なのだ。
とくにわたせさんとボブは週一ペースで会っていて、
「欲望のおもむくままにうまいものを食べまくる」という会を開催してる状態。

ぼくは二つのライブを終えて、なんともいえない悲しい気分になっていた。
兄が持ってきた「メキシコ産のカナディアンウィスキー」という不思議な飲み物を飲んでいたせいかもしれない。
テーブルの上にはわたせさんが持ってきた「ユリイカ」の青葉市子特集。ここに知久さんが文章を寄稿している。


大阪でのライブはわたせさんの紹介によって実現したものなので、
素晴らしい二組との対バンだった。二組とも素晴らしかった。
持ち時間も十分に与えられた。お互いがお互いの演奏を観て、表現について何かを思う。声を掛け合う。
集客の感じで想像する以上のギャラをいただいた。
はっきり言って、我々は東京でだって、こんな素敵なイベントに出演したことはない。
どうしていつもよくわからないイベントに誘われ、チケットは3000円もして30分しか演奏できないのだろう。




京都でのイベントは、我々のつながりで入れ込んでもらったブッキングなので、
対照的だった。
大学生ノリのバンドマンたちが6組も集まって、持ち時間は30分。
本番中にリハーサルするようなふざけたバンドもいた。
楽屋ではスマホで音量を最大にしてユーチューバーの動画をみながらはしゃいでいる女たち。
でも店長はめちゃくちゃ良い人だった。こんな時期に来ていただいて本当にすみません、と言っていた。
こちらこそ集客の助けにならずにすみません、と言った。
ご飯代くらいですが、といってギャラまでいただいた。

ライブハウスの人はすごく優しくて、
特にこういう時期だから、なんだか結束力が生まれる。
良い人たちだった。

それよりも何よりも腹が立つのは自分たちに対してだ。

メキシコのカナダウィスキーが進む、進む。これはうまいぞ!
ボブが買った「アイスの実 大人のショコラ」は絶品だった。ホタルイカの燻製をライターで焼いて味わう。
目の前のテーブルには、大特集されている青葉市子さん。
emaruが代表してそれを音読する。
知久さんが寄稿した文章には、嬉しいことに、
macaroomのemaruについて一瞬だけ触れてくれている箇所があった。
わっ、とみんな声をあげる。
ユリイカに自分たちの名前が載るなんて思ってなかったから、
みんな喜んだ。
でも一方で、ぼくは自分たちの現状に腹が立つ。

鬱金桜の花見で、エマルと青葉市子さんはけっこう酔っ払いながらバドミントンをして、
知久さんはそれをみながら笑っていた。

くそ、あんなブッキングに入れられるのは、自分たちのせいだ!
誰からも何の特集も組まれやしないし、イカしたフェスにだって誘われやしない!
くそ、やけにアルフォートがうまいぞ。こりゃ狂ったようにうまい!

ツアーから帰ってきて、ぼくは改めてユリイカを買った。
ピカソの、ハンカチを噛む女性の絵を思い浮かべる。あれはユリイカを持ってレジに並ぶ俺だ。

七尾旅人さんの文章を読んだ。
青葉市子さんについて書かれた文章だが、ぼくは興味深い箇所を見つける。
おや?
その意味深な文章を読んで、ぼくにはわかる。しかし決定打ではない。
これは、救いだろうか? 絶望だろうか?

なぜだろう、と考える。
我々の音楽は、誰に評価されていて、誰に聴かれているんだろうか。

結果的に、ぼくらはコロナウィルスに救われた。客の入りが少なくても言い訳になるからだ。
アンコールの曲を練習したのが馬鹿らしい。
けど、パンデミックの最中に浮かれてアンコールなんてやってもね、自粛よ、自粛!
と、
ぼくらはこうやって言い訳するわけさ。

帰りに立ち寄った三保の松原、日本一深いという駿河湾は強い風でヨットがたくさん出ていた。
ぼくはこの強い風に歌川広重の姿を見た。風じゃ風じゃ!! 
KORGのシンセをのせたカートが砂に埋まって動かない。
もうすぐ生まれ故郷へ渡っていく予定のユリカモメが集まってくる。

最近はマグロ不況らしくて、一隻しかマグロ漁船は停泊していなかった。
近くの喫茶店は禁煙だったが、他に客がいないので店主が灰皿を出してくれた。
店内にはジョニー・キャッシュが流れていた。






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