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2012/03/13

Megauploadと著作権

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香港に居を置く巨大オンライン・ストレージサービスMegauploadが閉鎖された。
この話はわりと関係ない人にはどうとも思わない話だろうが、ぼくはそうともいかない。Megauploadには大変お世話になっていたからだ。が、しかし今や「大変お世話になっていた」と発言することすら憚れるのではないかというような状況になってしまった。
Megaupoloadというのは、音楽や映像のファイル違法ダウンロードの宝庫のようなものだ。映画にしても発売されたばかりのアルバムにしても(発売前のものさえある)簡単にダウンロードできる。
Megaupoloadごたごた問題の流れはこうだ。
MegauploadがYoutubeに投稿した広告が米ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)によって削除されたことから始まる。その広告は米国を代表するミュージシャンら(will.i.am、P. Diddy、Alicia Keys、Jamie Foxx、Kanye West)がMegauploadを賞賛するというような内容で、おそらく所属アーティストとUMG側に明確な取り決めはなかったであろうが、著作権法すれすれのサイトの広告に彼ら印税生活者らが出演することはUMGからすれば考えられない(腹立たしい)話だろう。

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MegauploadとUMGは裁判になったが、時を同じくして米司法省とFBIがMegauploadの関係者7名を告発した。4名が逮捕され、3名は逃亡中らしい。
著作権者への被害額として総額5億ドルという数字があがっており逮捕された関係者は著作権侵害や共謀罪など最大で20年の罪に問われる可能性がある。
これに対し、国際ハッカー集団「アノニマス」がUMG、FBI、司法省のにサイバー攻撃を繰り返している。アノニマスは最近では2011年の「facebook革命」と俗にいうチェニジアの革命に加担し攻撃するなど、おそらく世界で一番有名でありかつ実態の不明なハッカー集団だろう。
アノニマスはその存在自体がMegaupload的だ。
バルチモア・シティ・ペーパーズのクリス・ランダースはアノニマスを次のように言っている。
「アノニマスはインターネットを基礎とした最初の集団的無意識である。アノニマスは、烏合の衆が集団であるという意味で集団である。その集団をどう認識するかって? 彼らが同じ方向を向いて動いてるからだ。いつでも参加し、離れ、どっかへ行ってしまう」

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アノニマス

驚くべきことに、UMGが訴えたMegauploadのCEOは、アリシア・キーズの旦那でもある名プロデューサーで、元UMG所属のミュージシャンだったSwizz Beatzなのだ。
UMGの告発は、多くのリスナーを刺激する内部告発のような形となってマスメディアに流れて、結果アノニマスの格好の餌食となってしまった。

そしてMegauploadはどうなったか。もうすでに、Megavideo.bizとして生まれ変わっている。消えてはまたすぐ立ち上がるのだ。似たようなサイトも多く存在する。おそらく一番利用者が多いのはrapidshareだろう。他にもfilesonicやMediafireなどがあるが、数は増える一方だ。ユーザーからしてみれば、似たようなサイトが多いほど有料会員にならずとも同時並列のダウンロードが可能であり、アップロード側もそれを利用して同時にいくつものサーバにアップする。
結果的に、Megauploadの関係者は痛い目をみたが、ユーザーの著作権法に関する倫理的な認識は全く変化していない。著作者たちがそれを支持しているからだ。一方、司法省、FBI、UMGが受けた攻撃の損害は計り知れない。

著作権法ほどあってないような法律もないかもしれない。アメリカの俗にミッキーマウス保護法と呼ばれる著作権法も日本では全く機能しない。がしかし日本でもミッキーマウスの使用は暗黙の了解で半ばタブーのようになっている。ディズニー・ジャパンはこれについて「著作権に関する方針や見解は公表しないことになっています」とコメントしている。(安藤健二『封印されたミッキーマウス』)この都市伝説のようなミッキーマウス神話は何だろう。
Youtubeのユーザーは何が違法で何が合法かということにあまり関心がないだろうが、そもそもその境界線が曖昧であるということは認識しているかもしれない。
アーティストにとって著作権とはなんだろう。
美術ではコラージュやレディメイドはもはや全く前衛的な手法ではない。ジェイムズ・ジョイスのように「頭を使って」サンプリングしなくても、ウィリアム・バロウズはハサミとテープで作品をつくるカットアップという技法によって他人の文章を自動的に再構築した。クラフトワークの曲に合わせてラップするところから始まったヒップホップは、ターンテーブルが楽器であり、今ではサンプラーがなければ成立すらしない。全く別の2曲をつなげて一曲にするマッシュアップは一体誰の作品だろうか。他人の動画をつなぎ合わせて再編するMADの流行は、それ自体が作品とは呼べないのか?Wikipediaの作者は一体誰だろう。

フランスで始まったオークションの再販売権(Droit de Suite)はセカンダリー・マーケットで著作者に落札額の何割かが入るという仕組みだが、それによってパリのオークション額は高騰し、結果的にパリのアートマーケットが縮小する原因となった。(日本ではセカンダリー・マーケットでは著作者には一切儲けはない。収入はアーティストが最初に買い手から受け取った金額のみ)
2012年からEU全体でこれが適用されるが、これがEU全体のアートマーケット縮小の第一歩になるのかどうかはわからない。

Googleは2012年1月18日、米議会で審議中の「オンライン海賊行為防止法案」(SOPA)への反対を呼び掛けるリンクをホームページ上に貼り付けた。SOPAに反対し、抗議活動を展開しているのはGoogleだけではない。Wikipedia、Facebook、Twitterなど大手インターネット企業が率先してそれに反対しているのだ。


【余談】ディズニーTシャツ

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アメリカのディズニーストアで販売されていたジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)のアルバム「Unknown Pleasures」にインスパイアされたミッキーマウスのTシャツ「Waves Mickey Mouse Tee」が販売中止となった。

元ネタ
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「ディズニーは、このバンドのシンガーが首を吊ったことを知っているのだろうか?」Pitchfork誌

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さらなる元ネタ(1967年に発見されたパルサーのイラストを天文学の百科事典から)。もちろん著作権などない。








著作権は今や保守的な虚しい響きと共に終わりに近づいている。関テクスト理論によって崩壊した作者至上主義が、もはやただの主義にとどまらず、時代がそれを追い越し始めている。著作者を労い感謝する「あたたかい」思想が、今ではただの時代遅れの「鬱陶しい」思想になり始めたのだ。


私たちは、幸せだと感じる瞬間にも、「こんなに幸せなら来世はきっと苦しむに違いない」などとはこれっぽっちも思わない。
私たちは、リツイートされた素晴らしい文章を「誰が発言したか」など気にすることなくリツイートする。
私たちは、平和な日本国憲法に感謝しても、GHQに感謝することは全くない。
私たちは、大好きなミュージシャンのPVをYouTubeで見て興奮しても、それがアップロードされた経緯を確認することも、疑問に思うこともない。

私たちは、テクスト(作品)以外を必要としていないのだ。テクスト以外のもの、作者やその背景や経緯など一切に興味はなく、ただテクストのみを精読するのだ。



Megauploadの閉鎖は、こうした時代変革期の、象徴的な(小さな)出来事だと思う。

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