ちょっと酔っ払い、翌日の発射のことを考えて不安と昂奮が少しずつといった状態でかれが島から帰ってくると、部屋には誰もいなかった。イルゼも、花模様のバッグ、いつも寝台に脱ぎ捨てられていた洋服も、みな消えていた。残されていたのはみすぼらしい対数方眼紙が一枚だけ(それはペクラーの指数関数曲線の恐怖を和らげ、線型の、安全な恐怖にするのに役立った)。それと同じ種類の紙に彼女は月の家の絵を描いたものだったが、いまはこう書いてあった。「パパ、わたし戻るんだって。たぶん、また会わせてもらえるわ。そうだといいんだけど。愛してます。イルゼ」
クルト・モンダウゲンは、ペクラーが娘の寝台に横になり、枕に残ったイルゼの髪の匂いらしきものを嗅いでいる姿を見つけた。それから、しばらくの間、ペクラーはちょっと正気を失い、ヴァイスマンを殺してやるとか、ロケット計画を破壊してやるとか、仕事をやめてやるとか、イギリスの精神病院を探すとか口走っていた。
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