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2017/11/13

山下陽光とピエール・ブーレーズの新しいレスポンソリウム

※この話の構成は、
ブリコラージュとアカデミズムの中間に「気絶」を挟んでいます。
どうぞお楽しみに。

とりあえずは、
山下陽光氏ひきいる「新しい骨董」の講演会をみにいった。

山下陽光氏はファッションブランド「途中でやめる」や「バイトやめる学校」などで知られるアーティストで、日本のいわばブリコラージュ的芸術、いや素人芸術といった方がいいのかもしれない、の雄なわけだ。この手の雰囲気でいま最も有名なのが坂口恭平氏であろうし、かつては赤瀬川源平のような人もいた。
それに写真家・下道基行氏、編集者・影山裕樹氏を合わせて「新しい骨董」という芸術集団で、これにさらに建設途中の鉄筋コンクリート「蟻鱒鳶ル」の設計者でオーナーの一級建築士・岡啓介を交えての講演会であった。

蟻鱒鳶ル

山下さんはぼくを見るや否や「君は絶対に会ったことがあるよね!」と話しかけてくる。
講演会はとてもおもしろかった。そして蟻鱒鳶ルという建物もとても素晴らしいと思ったね。
ビルの話や、新しい骨董の3人のこれからの構想など。
結局のところ創作活動とは土地の争いに他ならないことを再認識できた。

その後飲み会へ。
講演の主催者と客入り乱れて。飲み会に参加した客はそのほとんどがアーティスト。
ダンサーや写真家や建築家や編集者やデザイナーなど。
それも、こういったブリコラージュ的なアートが大好きなタイプのアーティスト。数時間の飲み会の間に何度「坂口恭平」という単語が飛び交ったことか。
みなそれぞれ芸術的志向が強すぎて話が噛み合わない。
気づけばぼくは全然知らない編集者のおばさんに「税金だけは払った方が良い」と説教されていた。
それから「新しい骨董」を「価値転換を促す素晴らしい試み」だとか「一瞬で面白いと思える作品」「ブランド品とは違う価値がある」とかなんとか。
ぼくは「新しい骨董」は新手の詐欺だと思っているだけなので、それを伝えるが、あまり芳しくない反応。
その間、影山裕樹さんはぼくの巻きタバコをずっと下手くそな巻き方で吸っていた。ぼくは残り少ないタバコを気にしながら少なめに巻いて吸うが、影山氏はおかまいなしだ。
山下さんはすぐに別のテーブルで熟睡をはじめる。

300円均一の居酒屋で5杯ほど飲んだが、会計は全員一緒で3000円だった。
誰がこんなに死ぬほど飲んで食ったのかわからないが、おかげで5杯分も損してしまった。
こりゃバイトやめれんな、と憤りながら店を出る。みんな「安い安い」言ってたが冗談じゃない。
山下氏は解散のときも熟睡しており、誰かが介抱していた。
それを尻目に、私はその日知り合った妖艶なコンテンポラリー・ダンサーと2人で駅まで向かう。

妖艶なコンテンポラリー・ダンサーとは別々の電車に乗る。

その電車で、ぼくは失神したのだ。

数年ぶりのことだが、前にも一度そういうことがあった。
酒を少ししか飲んでいないし、とても泥酔しているとはいえないのだが、
とにかく電車で気を失ってしまうのだ。5年前くらいの話。
それ以来の失神。
ぼくは知らぬ間に気絶して床にぶっ倒れていて、おっさんに抱え上げられる。
床に落ちた携帯を拾い上げて、目的地でもないのに電車をおりる。
駅のホームの地べたに座り込む。ホームは人で溢れているが、地べたに座っているのはぼくだけ。
大量に汗をかきながら、最終電車になんとしても乗らなければならない。
汗だくで再度電車に乗り込む時、
「あれ!? あ!」と男性が話しかけてくる、山下陽光氏だ。
山下さんはちょうど電車を降りるところで、ぼくとは入れ違いになった。
ああ、どうも、
と朦朧の中で答え、めちゃくちゃ微妙な感じで別れてしまった。



そして次の日は、ブーレーズのレポンだ。
ブーレーズとのレスポンソリウム。
ボブが「絶対に行きたいん内容なんだけど絶対に行けない日程なんだよ」とずっとぼやいていた企画。
だから、ぼくは絶対に行かねばならない。

ピエール・ブーレーズといえばわれわれmacaroomの大大大師匠、
エレクトロニカの大先輩、いやエレクトロニカの創始者といっても過言ではない、
そんなデタラメ半分をemaruに力説し、
ボブの無念を2人で晴らすべく参戦したわけだ。

ホリガーの無声子音ばっかりの合唱曲は本当に素晴らしかった。
譜面をみてみたいと思ったね。みんな静かにしてたから、空調の音まできこえてた。

そのあとのメシアンのオルガン曲は、途中ですっかり寝てしまった。前日から体力が全然回復していないんだもの。
途中で何かの音にびっくりして起きたんだが、
その時に、前日に蟻鱒鳶ルの岡さんと「映画の途中に寝るのは絶対によくない」という話になったことを思い出した。
それに対してぼくは「絶対によくないんですけど、それでも上映中に寝た時の体験は素晴らしい」とかいうことを反論したのだった。岡さんは苦笑いだった。
目が覚めてプログラムを見ると、ぼくが寝ていたのはちょうど平和を象徴する鳥の章であった。素晴らしい。

そして森垣圭一さん書き下ろし作品。
メシアンが書いて弟子のブーレーズがパクった音列を、同じく弟子の森垣さんもパクって、ソリストたちが音列のバリエーションをやってくというもの。そのうちに音列が音色をまたいでいくから、どれがどれかわからなくなってく感じの曲だった。この曲は森垣さんのサービス精神だろうね。

そしてブーレーズのレポン。めったにない環境で、観客を50台のスピーカーと演奏者が囲んでいる。オケとソリストとMaxのリアルタイム処理。ツィンバロンなんかもいたりして。
基本的にはディレイばっかりで、
最後に少しだけリングモジュレーション。
リングモジュレーションのビョーンっていう感じは、なんとなく時代を感じさせるというか、古き良きアヴァンギャルドな響きでいいね。いまはあんな音(ダサいから)ぜったい使わないもの。
しかしリングモジュレーションがほとんど使われなかったのはブーレーズの音列のせいなのか、それとも当時のリアルタイム処理の限界地点だったのかは、よくわからない。
とはいえ、MAX操った今井慎太郎さんは、IRCAMから取り寄せたプログラムを、「これなら自分でやったほうが良い」
と判断してプログラミングし直したらしいから、今考えると相当に単純なものだったんではなかろうか。

昨日のアウトサイダー的なブリコラージュ的アートから、
一転して超アカデミズムな場所と雰囲気で現代音楽。
素晴らしいね。その間に失神を挟んでいる。

主催の川島素晴先生とは今年はずっとコラボし続けている。
12月16日には先生主催のジョン・ケージ一色のイベントに我々macaroomも参加するのだ。

疲れ切った私は、飯もろくに食べれなかった。
寒いのに雪見だいふくを食べ、そして寝た。


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