母が書いた小説を読んだ。母は一昨年ころからなぜか小説を書き始め、ぼくはこの度初めて読んだのだが、もうすでに三作目らしい。一昨目はすでに新人賞に送ったらしい。iPhoneにWordを添付して送られてきたので、苦労してベッドの中で読むことになったが、なんとか読了した。
読み終えてすぐ母に電話した。感想を伝えると、母は冒頭の出だしの文章を自慢し、「宮本輝みたいやろ?」と言ってきた。実に宮本輝みたいな書き出しなのだ。母は昔から宮本輝に一途だ。
ぼくはこの小説を読んで、田中慎弥に通ずるテーマ性を見出したが、母は田中慎弥が嫌いだった。
「こんな小説をかくおかんが田中慎弥嫌いっていうのがよくわからんわ」
と言うと、母は田中の小説について
「宮本輝は、ああいう風には書かん」
と言って、それから笑って
「宗教みたいやな、おかん」
と自分でいった。
これには二重のブラックな笑いを含んでいる。
ぼくも実は小説を書いている。小説は書き終えたらまず誰かに読んでほしいと思うのだが、なかなか読んでくれる人がいない。5分ほどで読める短い話ならいいが、長編となると印刷だけで大変だし、最近は本を読みたいと思う人があまりいない。
いつも知り合いが数人と、家族が読んでくれるだけだ。身内が読むために小説を書いているわけじゃない。ルイス・キャロルじゃあるまいし。
音楽もぼくは作っているが、音楽は誰でも聞いてくれる。Skypeで送れば5分後には感想を言ってくれる。
小説はなかなか読んでくれない。
あまり普段小説を読む人も少ない。
職場で小説を読んでいると、ほめられたりする。
本を読むのが好きだというと、かっこいいといわれたりする。
なぜあんたは本を読まないんだときくと、難しいからとかいう。
しかしみなさんSNSのリーディングには必死だ。電車でも、食事中でも、話しながらでも、寝ながらでも、FacebookやTwitterやブログの精読をしている。そしてそこに書いてあることについて考え、イラついたり、悲しんだり、喜んだりする。
読むだけじゃなく、書いたりもする。好きな歌の歌詞や、時事ネタや、職場の文句や、友人との出来事や、食事のことや、行った場所などを、書いたりする。そしてその反応がどうであるか必死の思いで追走する。
しかし彼らは小説を読みも、書きもしない。
ぼくはSNSの流行とともに、一般の人と文学は近い関係になったのだと思っていたけど、たぶん違うだろう。
なぜならSNSやブログの読み書きというのは、結局のところコミュニケーションだからだ。作者と読者とのメッセージのやりとりが、より迅速なものとなって一般化したのがSNSだ。
しかし文学はコミュニケーションなど全く存在しない。小説は、作者が読者になんらかのメッセージを伝えるものではないし、伝えようとしても伝わらないものだ。
僕たちは中学生のころに「作者の意図はなにか」ということを三十字以内で書かされたりしたが、そんなものは誰にもわからないし、作品とは関係がない。
言葉とはコミュニケーションツールであり、人から人へメッセージは伝わるはずだ、という架空の信仰は、ブログやSNSによって特に根付いてしまったような気がする。
そういう人は「Facebook辞めようと思います」ということをFacebook上に書いたりすることや、「リツイートしまくる人はなんなんだ」ということをツイートしたりすることの矛盾や下品さを省みないだろう。美意識よりも言葉の内容そのものが重要なので、批判や自慢だけが一方的にばら撒かれてしまう。
よくぼくは小説を「わけのわからないまま」読むことがある。それで結局最後までわけのわからないことがある。別に前衛的なものに限ったことじゃなくて、例えばヘミングウェイみたいな小説を読むときもそういうことがある。実をいうとほとんどの小説がそうかもしれない。これがもし会話なんかでそんなことになればぼくはただのコミュニケーション障害になってしまうだろう。つまりSNSではそういう事態は許されない。
そういうとSNSは自由なもので、わけのわからない文章なんかざらにある、と反論されるかもしれない。
しかしわけのわからない文章だと断定できるものは結局はコミュニケーションだとう前提がそうさせている。
だから小説は能動的なようである意味受動的なものなのだ。
わからないまま、とにかく読み進めていって、気がついたら読了している。その読後感は、とても口では言い表せないにしても、とにかく「作者の意図がわかった」とかそういうことじゃない。
そうは言っても、本を読むことが好きな人はたくさんいるだろう。ぼくの知り合いにも、多くはないが、そこそこいる。
SNSをやっている人はというと、友人のほとんど全員だ。
今日は特に意味のない文章を書いたが、ぼくの意図が伝わっただろうか。それともわけがわからないだろうか。どちらにしても本望です。
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