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2012/08/26
勉強し、立派な大人になりなさい。
macaroomのボーカルemaruがぼくに連絡してきた。話は、ぼくらが参加した同人音楽サークルのCDについてで、その中に「パクリ曲」があるというのだった。
ぼくはパクリ曲など板野友美整形疑惑程度にしか興味はなかったが、とりあえずぼくの名前もクレジットされてるCDなので聴いてみた。
聴くとすぐにその曲がわかった。アレンジ曲なのだが、それはぼくがよく知っている曲に瓜二つだった。アレンジしたのはすみじゅんというぼくの友人で、emaruもぼくも、macaroomのみならずプライベートでも大変お世話になっている人だ。
すみじゅんがパクった曲はBritney Spearsの『I Wanna Go』という、わりと最近の有名な曲だった。
すぐにすみじゅんに電話してきいてみると、「うん参考にしたよ」という感じだった。きくと、彼はアルバムの構成を考える際に「こういう曲があったらいいなあ」と思ってこの曲を参考にしたらしい。「まあ、みんな同じようなことしてるしな」と彼は言う。なるほど、これほど瓜二つなパクリをするとは、なかなかの度胸だ。
しかし彼は重要なことをひとつ忘れていた。
それは、Britneyのその曲を選んだのは、すみじゅんではない、ということだ。
それは、ぼくなのだ。
遡ること一年前だ。ぼくは台湾に中国武術の大会に出て、台北のしょぼいスーパーの本屋でBritneyのCDを買ったのだ。
ぼくはBritneyのCDを買うのは中学生以来だったが、帰国して聴いてみると、そのサウンドの変化に驚いた。
興奮したぼくは様々な友人にこのアルバムのデータを送りつけ、すすめまくった。その一人がすみじゅんである。
ぼくはSkypeでのすみじゅんとの会話をおぼえている。
「いいか、すみじゅん、おれは今後お前がどういう活動をしていくかは知らん。同人CDを続けるのか、違うことに手を出す気なのか知らん。しかしな、少なくともポップスとクラブサウンドと密接に関連した音楽を作っているんだろう。このBritneyのアルバムをきいてみなさい。すべてが詰まっている。文字通り、すべてだ。このアルバムはポップスの未来だ。そして、クラブサウンドの未来だ。このアルバムを今きかないでどうする?確かに、今の時代、あまりにも音楽が溢れている。人が生まれるよりも多く曲が誕生している。人が死ぬよりも多くの曲が忘れ去られる。その中で名曲とそうでない曲を判断することは非常に難しいだろう。いや、そうすること自体意味はないのかもしれん。しかしな、このアルバムをきいてみなさい。これはポップスの未来であり、おまえの未来なんだ。おい、いいか?きいてるのか?ん、まあいい。とにかく、このBritneyのアルバムがお前の助けになるだろう。このアルバムに感謝するときがくるだろう。そのときがきたら、Britneyに感謝し、そして少しばかりぼくにも感謝しなさい。いや、感謝しなくてもいい。少しお金を貸しなさい。いや、ギャラを上げるだけでもいい。とにかくいまはこのアルバムをきいて、勉強しなさい。いいか、ちゃんと勉強するんだよ」
それから一年がたち、そのときがきたのだ。すみじゅんはBritneyのアルバムをぼくがあげたことや力説したこともすっかり忘れていて、自分の意思でパクリ曲の元を選んだと思っていた。しかしそれは違う。あの曲を選んだのはぼくなのだ。
ぼくは、ジョンという友人にも、一年前にBritneyのアルバムを送って「勉強しなさい」といっていたので、今回のパクリ騒動についてジョンと電話をした。
ジョンはすみじゅんのことを「ガリ勉か」と言った。
うん。そうだ。すみじゅんはガリ勉だった。少しばかり勉強しすぎたのだ。ぼくは勉強しろと言ったが、ここまで糞真面目に回答を丸暗記して試験を受けるとは思わなかった。試験と模擬試験とは回答が違うぞ、すみじゅん。回答を暗記するんじゃない、それを応用しなけりゃならん。
ぼくはヘミングウェイの小説を思い出した。それは、パクリ疑惑で訴えられた小説家と、それを真っ先に見抜いた父親の話だった。父親は息子に、お前の小説はすごくいい、お前の小説を読んでると昔の何かを思い出すようだ、と言う。すると息子は「父さんは何をみても何かを思い出すんだ」という。
そして父親は後に気がつく。息子がパクった小説は、自分が昔好きだった作家の小説だったことを。息子にパクり元の小説を選んだのは、自分だったのだ。
そしてすべてのことをemaruに伝えた。すると彼女は、「なんか、面白いね。なんかガクが書く小説を思い出すね」と言った。
違うぞemaru。
お前は何をみても何かを思い出すんだ。決してぼくの小説はパクリなんかじゃない。違うんだ。絶対に違うんだぞう!
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