ともあれ、どんなに月日がたっても、というかたてばたつほど、色褪せるどころか眩い光をどんどん放ってくるように思える思い出の作品もある。
そういう作品はたいてい、どこがどういいとか説明のできるようなもんではなくて、過去のアルバムを見るようなノスタルジーに震えながら悲しいような感動のような気分になるので、どうも他人には勧められなかったりする。どうやって勧めていいのかわからないのだ。おそらくそれは早い段階、たぶん思春期とかそういう多感な時期に体験したものが多いと思う。
例えばぼくは辛島美登里の『Rainbow rainbow』という曲を聴くと、もうどうしようもなくなるほど悲しくなる。
それは、ぼくが小学生のころ、母親がUSENの目覚ましを設定していて、毎朝6時になるとこの曲が爆音で鳴り響いて一家は目覚めていたからだ。学校に行きたくない思いが条件付けされ、辛島美登里のこの曲を聴くともう耐えることができなくなってしまった(パヴロフの犬のように)。確認はしていないが、恐らく兄もそうだと思う。(当時はタイトルやアーティストは知らなかった)
この曲はYouTubeとかになかったから、Amazonでぜひ視聴してほしい。どんだけ暗い目覚めなんやって思うと思うから。
Rainbow rainbow
これはトラウマだが、良い印象のものももちろんある。
『踊れ トスカーナ!』という映画がそうだ。これは人に映画を勧めたりする際に必ず一瞬頭に過る映画なのだが、きちんと勧めたことはないし、自分でも何が良いのかよくわかっていないのだ。イタリアでは大ヒットしたらしいが、色んな友人に聞いても、なかなか知っている人に出くわさない。
ストーリーも笑いも映像もなんてこともない平凡なものなのだが、ぼくがこの映画から受けた影響は圧倒的に多い。たった今思い出したが、ぼくが香水を作るようになったのは、この映画のヒロインが香水をブレンドしているという話に心惹かれたからというのもある。
しょーもない物語だけど、平凡な恋愛映画の中では、これ以上のものは存在しないと思っている。そしてその良さはぼくの思春期の様々な思い出と織り合わさって自分本位に出来上がったものなので、共有できるのかどうか全くわからない、従って、誰にもお勧めしない映画でもあるのだ。そしてこの映画の監督も、女優も、主演も、誰なのか全く知らない。たぶんいつまでも知らないままなのだろう。まあそれで全然かまわない。
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