Pages

2012/07/09

ミルク(紅茶抜き)

私は日頃からグローバルな活動を行っているが、先日あるイギリス人の知り合いが「イギリスではミルクがないと朝が始まらない」ということを言っていた。「ああそうなのか」と思ったが、確かにイギリスでは紅茶には普通はあたりまえのようにミルクをいれるから、「紅茶=ミルクティー」という話をきいたことがある。これは普段ストレートの紅茶を楽しむ私としては信じられない愚弄な行いに思えるが、なにもイギリスだけでなく、ここ日本においても「紅茶=ミルクティー」の文化を持つ場所が存在する。
それがバーガーショップだ。バーガーショップというと洒落たオニオンフライや50sロカビリーの流れる粋なお店を想像するかもしれないが、そうではなくてマクドナルドやファーストキッチンやロッテリアやモスバーガーやフレッシュネスバーガーやバーガーキングなどのファーストフード店のことをいっている。
すくなくともマクドナルドは、レジで紅茶を注文した際に、ミルクを添えるかストレートかに関わらず「ミルクティー」というボタンを押す。アイスティーを注文すればアイスミルクティーであり、ホットティーを注文すればホットミルクティーというボタンを押す。そして「ミルクや砂糖はご利用になられますか?」のようなセリフをいう。その理由はいまだに謎のままであるが、ともかくそういう業界用語のような使い方がある。
だからマックで注文の際に、牛乳を頼むつもりで「アイスミルクください」といえば、「かしこまりました」と言って、アイスティーが出されるのだ。店員たちはアイスティーのことを「アイスミルクティー」とよんでおり、それを略して「アイスミルク」とよぶのだ。
だから「アイスミルクください」と注文すれば、「かしこまりました。ミルクはご利用になられますか?」と続くのだ。

この矛盾に気づいた数年前、私は大規模な調査を開始した。対象はマクドナルド、ロッテリア、モスバーガー、ファーストキッチンで、様々な店舗を渡り歩いて勢力的に調査した。
調査のルールは一つだけである。すなわち、注文するドリンクの名前は「アイスミルク」である、ということだ。つまりこちらからは「牛乳」や「ミルク」とは言わない。
店に入り、例えば何かのセットを注文する。「ドリンクはいかがなさいますか?」と問われるので、「アイスミルクで」とこたえる。
調査をした結果、すべての店舗で冷たい紅茶が出てきた。すべての店舗でだ。
冷たい紅茶が出てきたとき、私はまず控えめに「いや、アイスミルクと注文したんですけど……」と言う。
ここでほとんどすべての店舗で店員は「はい、こちらアイスミルクティーです」とこたえる。
続いて私は「いや、だから、アイスミルクなんですけど」という。
店員は困った顔をして、「ええ。ですからこちらアイスミルクティー」ですけど」という。
「いやいや、だからアイスミルクだって」
この時点で気づいて、牛乳を出す店舗もあったが、全く気づかない店舗もあった。
私はルール上、「牛乳」や「ミルク」とはいえない。
あるファーストキッチンではこの会話のやり取りが何往復も続き、半ば私がブチ切れかけたころに店員は、
「あ!あの、普通の牛乳のことですか?」と言った。

なるほど。「普通の牛乳」という発想はなかった。
物事には無標と有標がある。ヘビと言えば海ヘビのことではなく陸のヘビのことであり、豚といえば海豚でも河豚でもなく陸上のブヒブヒ言ってるやつのことであり、女優といえばAV女優ではなくサマンサ・マシスやウーピー・ゴールドバーグのことであり、キャバレーといえばキャバレークラブ略してキャバクラではなくムーランルージュとかそういうもののことだ。それを陸ヘビや陸豚や非エロ女優や大型キャバレーなどとは言わない。ミルクとはミルクであり、普通のミルクなどとはいわない。
さらに私は、ファーストキッチンのメニューをみて驚愕した。そこには、「アイス」という欄があり、「ミルク」と表記されていたのだ。つまり少なくともメニューの上では、「普通」でもなく「牛乳」でもなく、「アイス」の「ミルク」なのだ。

私はこの調査の結果を深刻に受け止め、友人たちに報告した。友人は「それは嫌な客だ」や「普通に注文しろよ」や「ノイローゼ気味」や「なんで牛乳飲みたいんや」というような感想を言い、あまりぼくに共感する人はいなかった。
その後何人かの友人からメールで「あたしも実験してみたけど、普通に牛乳でてきたよ♡」というような報告があった。私は「注文の仕方が悪いんだ!そんな報告は認めん!」と怒り狂ったが、最近は調査を怠っているので、この頃の事情はわからない。

皆さんもぜひ一度調査をしてみていただきたい。